相続時の財産分割方法には、法定相続分による分割、遺言による分割、相続人間での協議による分割、家庭裁判所による調停・審判による相続があります。
今回は遺言による分割における3種類の遺言書について説明します。
法定相続分によらず被相続人が自由に分割できる遺言書では、遺留分を侵害しない、一定の要件(厳格な様式・検認手続き)に基づいて行なうことが求められています。
費用はかかりますが、公証役場で作成する一番安全確実な公正証書遺言をお薦めします。
費用を少しでも抑えたいならば、専門家指導のもと、法務局で保管する自筆証書遺言書保管制度を利用して作成することを検討する余地もあります。
1.公正証書遺言の場合 :
メリット
①法的有効性の高さ:
公証人が遺言者の意思を確認しながら遺言を作成するため、法的に有効性が非常に高く、後に争われるリスクが極めて低いです。
②偽造・紛失のリスクが低い:
原本が公証役場に保管されるため、偽造や紛失のリスクがほとんどなく、遺言の内容が確実に相続人に伝わります。
③遺言者の意思の確実性:
公証人と証人が遺言作成時に立ち会うため、遺言者の意思がしっかり確認されます。また、遺言者の判断能力が疑われる場合でも、公証人がその判断能力を確認することで、後に遺言が無効とされる可能性を大幅に減らせます。
④守秘義務:
公証人には守秘義務があるため、家族や相続人に知られずに遺言を作成・保管することが可能です。
⑤家庭裁判所での検認(遺言書の状態確認)が不要
デメリット
①費用がかかる:
公正証書遺言を作成するには、公証人の手数料や証人への報酬が必要となり、費用が発生します。費用は遺言内容や遺産の価値によって異なりますが、一般的な自筆証書遺言よりも高額です。
②手続きが煩雑:
公証役場まで出向く必要があり、証人も2名必要です。特に高齢者や身体が不自由な方にとっては、手続きが大きな負担になることがあります。
③内容変更の難しさ:
遺言内容を変更や撤回する場合も公証役場での手続きが必要で、その際にも再度費用が発生する可能性があります。
④専門家の助言が必要な場合がある:
遺言内容が複雑な場合、法律や税務の専門家の助言を受ける必要があり、その分の費用や手間がかかることがあります。
2.自筆証書遺言の場合 :
メリット
①費用がほとんどかからない:
自筆証書遺言は、自分で紙とペンさえあれば作成できるため、公証人や証人への報酬が不要で、費用がほとんどかかりません。
②手軽さと迅速性:
いつでもどこでも作成可能で、思い立った時にすぐに遺言を書けるため、急な事情がある場合にも迅速に対応できます。
③内容の柔軟性:
遺言の内容を自由に書き換えられるため、遺産の分配方法や相続人の状況に応じて、柔軟に対応することができます。また、遺言書を何度でも作成し直すことができる点も大きな利点です。
④プライバシーの確保:
遺言内容を他人に知られることなく、完全に個人の意思で作成できるため、プライバシーが保たれます。
デメリット
①形式不備による無効リスク:
遺言は全文を遺言者自身が自筆で書く必要があり、形式に不備があると無効になる可能性があります。また、日付や署名を忘れるなどのミスが起こりやすく、その場合遺言が無効とされるリスクがあります。
②偽造・紛失のリスクが高い:
遺言書を自宅などに保管する場合、第三者による偽造や、火災や盗難などで紛失するリスクが高まります。また、遺言者が亡くなった後に遺言書が見つからない場合、遺言の効力が失われることもあります。
③遺言者の意思確認が困難:
公正証書遺言のように第三者が立ち会わないため、遺言作成時の遺言者の意思や判断能力が後で疑われることがあり、遺言が無効と主張される可能性があります。
④保管方法の工夫が必要:
自筆証書遺言は遺言者自身が保管するため、適切に保管しないと発見されにくくなる恐れがあります。法務局で保管する自筆証書遺言書保管制度(費用発生)を利用するか、信頼できる人に保管を依頼するなど、慎重な管理が必要です。
⑤家庭裁判所での検認(遺言書の状態確認)が必要。 ただし、法務局で保管する自筆証書遺言書保管制度(費用発生)を利用していた場合は検認不要。
自筆証書遺言は手軽で費用がかからない反面、無効となるリスクや管理面での注意が必要です。そのため、作成時には法的要件を満たし、保管方法にも十分に気を配ることが重要です。
秘密証書遺言のメリットとデメリット
秘密証書遺言のメリットとデメリットは次の通りです。
メリット
①内容の秘密性が確保される:
遺言の内容を他人に知られたくない場合、秘密証書遺言が有効です。遺言書の内容は作成者以外には分からず、公証人や証人でさえも内容を知ることはできません。これにより、プライバシーが守られ、相続人間の無用な争いを未然に防ぐことができます。
②一定の法的信頼性:
遺言書は封印され、公証人がその封印と日付、遺言者の署名を確認した上で署名します。この手続きにより、遺言書の存在と作成日が公証されるため、遺言の信頼性が高まります。また、遺言書の形式に関しても、多少の不備があっても無効にはなりにくいです。
③偽造防止:
公証人が遺言書を確認しているため、遺言書の偽造が難しく、後から遺言書が偽造されたと主張される可能性が低くなります。
デメリット
①費用と手間がかかる:
秘密証書遺言を作成するには、公証人と証人2名の立会いが必要であり、そのための費用が発生します。また、証人の確保や公証役場での手続きなど、作成に一定の手間がかかります。
②形式不備による無効リスク:
遺言書の本文を自筆で書かない場合、形式に不備があると無効になる可能性があります。例えば、遺言者が署名や押印を忘れると、遺言書自体が無効になる可能性が高まります。
③紛失・破損のリスク:
遺言書は遺言者が保管することになるため、紛失や破損のリスクが存在します。特に秘密性を重視するあまり、遺言書が相続人に発見されずに埋もれてしまうことも考えられます。
④遺言の有効性に疑義が生じる可能性:
遺言の内容が公証人に確認されないため、遺言者の意思や判断能力が後に疑われることがあります。この場合、遺言の有効性が争われるリスクがあるため、遺言作成時には慎重な配慮が必要です。
⑤家庭裁判所での検認(遺言書の状態確認)が必要
秘密証書遺言は内容の秘密性を保ちつつ、一定の法的信頼性を持つ反面、手続きの煩雑さや形式不備による無効リスクに注意が必要です。適切な形式と保管方法を守ることで、そのメリットを最大限に活かすことができます。
ご自身の大切な財産を、円満に相続させていくための重要な遺言書です。
他の方法(生前贈与・生命保険・家族信託・死後事務委任など)も含めた生前対策を提案できる専門家にまず相談することをお薦めします。
参考にしてください。 by 群馬県太田市 瀧口行政書士事務所