今回は、家族信託と法定後見・任意後見を次の10項目(期間、権限、本人に代わって不動産の売却・賃貸・立替え、相続税対策、悪質な訪問販売に対する取消権、本人死亡後の相続手続き、監督機関、財産管理人への報酬、定期的に発生する費用)の観点から比較してみました。

1. 期間(いつからいつまで)

家族信託信託契約で定めた期間に従います。契約内容によっては、委託者が生存中のみならず、死亡後も信託が継続される場合があります。
法定後見本人が死亡するまで続きます。本人の判断能力が回復することは稀であり、通常は終身にわたって適用されます。
任意後見本人の判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任してから始まり、本人が死亡するまで続きます。

2. 権限

家族信託受託者に対して委託者が定めた範囲内で財産の管理・運用を行う権限が与えられます。契約内容次第で柔軟に設定できます。
法定後見法律に基づき、後見人には財産管理や身上監護(生活支援)に関する包括的な権限が与えられますが、重要な財産処分などは家庭裁判所の許可が必要です。
任意後見本人が契約で定めた範囲内で、任意後見人に財産管理や身上監護の権限が与えられます。家庭裁判所の監督下で行動します。

3. 本人に代わって不動産の売却・賃貸・立替え

家族信託信託契約に基づき、受託者が不動産の売却や賃貸を行うことが可能です。契約内容で柔軟に設定でき、家庭裁判所の許可は不要です。
法定後見後見人が不動産の売却や賃貸を行うには、家庭裁判所の許可が必要です。許可が下りるまでに時間がかかることがあります。
任意後見任意後見契約で定めた範囲内で、不動産の売却や賃貸を行うことができます。ただし、任意後見監督人の監督下で行われ、家庭裁判所の許可が必要となる場合があります。

4. 相続税対策

家族信託家族信託を活用することで、資産の分割や管理を生前に計画的に行い、相続税対策として利用することが可能です。特定の受益者に対して継続的に利益を提供することで、相続税の負担を軽減できる場合があります。
法定後見相続税対策には制約があります。後見人には相続税対策のために積極的に財産を動かす権限が制限されているため、後見制度を通じた相続税対策は難しいです。
任意後見任意後見も相続税対策には限界があります。契約で定められた範囲内での対応しかできず、後見人の裁量では大きな相続税対策は困難です。

5. 悪質な訪問販売に対する取消権

家族信託家族信託そのものには取消権がありませんが、受託者が財産管理を行っているため、本人が契約を結ぶ前に防止することができます。
法定後見後見人には、本人が不利益を被る契約(悪質な訪問販売など)に対する取消権があります。家庭裁判所の許可なしで取り消すことができます。
任意後見任意後見人にも取消権が与えられますが、任意後見契約で定めた範囲内での権限となります。任意後見監督人の監督下で行われます。

6. 本人死亡後の相続手続き

家族信託家族信託により、本人死亡後も受託者が財産管理を継続し、信託契約に基づき相続手続きをスムーズに進めることができます。遺言書に代わる効果的な手段として活用できます。
法定後見本人が死亡すると法定後見は終了し、後見人はその時点で財産管理の権限を失います。相続手続きは通常の相続手続きに従い進められます。
任意後見本人が死亡すると任意後見も終了し、任意後見人は権限を失います。相続手続きは、通常の手続きとして行われます。

7. 監督機関

家族信託家族信託には、特定の監督機関は存在しません。受託者が信託契約に従い、信託財産を管理します。信託監督人を設けることも可能ですが、必須ではありません。
法定後見家庭裁判所が後見人の行動を監督します。後見人の報告や財産の管理状況を定期的にチェックし、問題があれば指導を行います。
任意後見家庭裁判所が選任した任意後見監督人が、任意後見人の行動を監督します。任意後見人は監督人の指示を受けながら活動します。

8. 財産管理人への報酬

家族信託受託者には、信託契約で定めた報酬が支払われます。報酬の有無や額は契約次第で決まります。家族が受託者となる場合は、無報酬とすることもあります。
法定後見後見人には家庭裁判所が報酬を決定します。後見人が弁護士や司法書士の場合、報酬は専門家の報酬基準に従い、財産から支払われます。
任意後見任意後見契約で報酬が定められます。報酬の有無や額は契約で決められており、家庭裁判所がその適正さをチェックします。

9. 定期的に発生する費用

家族信託受託者の報酬(契約次第)や、信託財産の管理費用が発生することがあります。また、信託財産に対する税金や維持費用も発生します。
法定後見後見人の報酬、家庭裁判所への手数料、財産管理に関わる費用が定期的に発生します。財産規模に応じて、監督機関の手数料も加わる場合があります。
任意後見任意後見人の報酬や監督人への手数料が発生します。家庭裁判所への手続き費用や契約書作成時の公正証書の費用も定期的に発生することがあります。

まとめ

家族信託、法定後見、任意後見は、それぞれ異なる特性と役割を持つ制度であり、財産管理や本人の生活支援のために利用されます。

家族信託は、信託契約の自由度が高く、相続対策に有効です。

一方、法定後見は法律に基づく厳格な管理が求められ、任意後見は本人の意向を尊重した契約による管理が可能です。

各制度の特徴を理解し、個々の状況に最も適した選択してください。

そして認知症など発症前の段階であれば、個々の制度では不十分なところを、家族信託+任意後見制度+遺言書の組合せをすることで、大分使い勝手が改善されますので、当事務所をはじめ専門家に是非ご相談下さい。

by 群馬県太田市 瀧口行政書士事務所

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